徴税吏員の逡巡

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質問検査の限界と捜索の範囲

国税徴収法第142条に基づく捜索については、

滞納者若しくは第三者に戸若しくは金庫その他の容器の類を開かせ 、又は自らこれらを開くために必要な処分をすることができる。

と規定されています。すなわち捜索については、相手方の意思に反して強制的に行うことができるわけですが、これに対して質問検査(国税徴収法第141条)については質問・検査を強行することを認める規定はありませんから、滞納者が検査を忌避した場合、滞納処分のための資料を収集することが不可能となります。
そこで、質問検査に対する受忍義務の履行を確保するための手段として行政刑罰についての規定が置かれています。

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 第百四十一条(質問及び検査)の規定による徴収職員の質問に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をした者
二 第百四十一条の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は当該検査に関し偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類を提示した者

では、この行政刑罰が実際に適用されているのでしょうか。

過日のブログでも「荒川民商事件」に触れましたが、じつはこれ、 刑事事件なんです(事件番号が昭和44年(あ)734号なので、刑事の上告事件ですね。ちなみに事件名は「所得税法違反」です)。
原審である東京高裁S43.8.23は、

被告人らは税法が憲法違反である、と前提し刑事処罰に甘んじても 法律上の検査制度を否定し、これを拒否すべきことを明らかにしているのであつて、それは端的に現行税制度に対する挑戦を意味する。もちろん、現行制度に対する自由なる批判は、国民の権利として当然許容されなければならないが、被告人らの本件検査拒否は明らかに法秩序その ものを無視したものとして、法的制裁を免れないものである。

として被告人に罰金3万円に処しています。

ただし、実際に質問検査の忌避による行政刑罰の適用状況は、本件を含めてわずか6例に過ぎず、それも全て昭和30年代後半から昭和40年代に判決が出されたもので、昭和50年以降、適用された事例はないとのことです(185ページあたり)。

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/50/03/ronsou.pdf

しかも、3万円の罰金刑に処されたからといって、質問検査の所期の目的が達成されたわけではありませんし、3万円という金額にしても、いささか違反者を威嚇する力には欠けるような気がします。質問検査権は、行政刑罰によって間接的・心理的に実効性を担保している、というのが建前なのでしょうが、前述のとおり運用面から見ても機能不全に陥っていると言わざるを得ません。

国税徴収法の規定では、質問検査は「滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるとき」に行うことができるのに対し、捜索は「滞納処分のため必要があるとき」に行うことができるとしています。文理上、141条の規定による範囲は、142条の規定による範囲に包含されるものと考えられますから、差押えを目的とした捜索は言うに及ばず、帳簿の取上げ等、財産調査を目的とした捜索も法が認めているものと解されます。質問検査が奏功しなかった場合は、捜索により物理的・強制的に調査を実現する、というのがあるべき姿であると考えます(手間はかかりますけどね)。