徴税吏員の逡巡

Twitterも見てね! @kt_theif

質問検査権と弁護士法23条

TLに流れてきた疑問が興味深かったので。

国税徴収法141条

徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次に掲げる者に質問し、又はその者の財産に関する帳簿書類・・・ を検査することができる。
一 滞納者
二 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
三 滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
四 滞納者が株主又は出資者である法人

ここにいう質問・検査は、一般に任意調査とされていますが、徴税吏員の質問に答弁をしない場合においては罰則の規定が設けられています(適用された、という話は聞いたことがありませんが)。

国税徴収法第188条第1項
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第百四十一条(質問及び検査)の規定による徴収職員の質問に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をした者
二 第百四十一条の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は当該検査に関し偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類を提示した者

「任意調査」なのに「罰則」というのはいかにも分かりにくいですよね。
国税徴収法による質問検査権についてはそれほど判例の蓄積が多くはないのですが(D1-Lawで検索したところ、該当判例は9件でした)、所得税法にもかつて同旨の規定が置かれており(所得税法旧第234条)、こちらに関する判例は非常に多く出されています(D1-Lawで597件)。
中でも、荒川民商事件として知られる最判昭和48年7月10日は 、

質問検査に応ずるか否かを相手方の自由に委ねる一方においてその拒否を処罰することとしているのは不合理であるとし、所得税法の前記規定の違憲(三一条)をいう点は、前記規定に基づく質問検査に対しては相手方はこれを受忍すべき義務を一般的に負い、その履行を間接的心理的に強制されているものであつて、ただ、相手方においてあえて質問検査を受忍しない場合にはそれ以上直接的物理的に右義務の履行を強制しえないという関係を称して一般に「任意調査」と表現されているだけのことであり、この間なんら実質上の不合理性は存しない

と判示しています。


では、任意調査でありながら罰則規定が設けられている「質問検査権」は、弁護士の守秘義務を解除するのでしょうか。

弁護士法第23条

弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

この点につき、大阪高判平成13年12月19日は、

弁護士が税務調査に対して、上記のような協力義務を負うとした場合、その過程で守秘義務に含まれる事項が税務署職員に知れる可能性はあるが、そもそも守秘義務を負う弁護士に対しても所得税法234条に基づく質問調査権の行使が容認されているのであるから、 守秘義務に含まれる事項が税務署職員の知るところとなることは法によって当然予定されているものとみるほかなく、本件を含め一般に税務調査の対象となる帳簿書類は、依頼者からの金員支払いの事実等経済的な取引の側面に関するものに限られ、 これらの事項にも守秘義務が及ぶとしても、その保護の必要性はその限度で制約を受け、さらに、税務署職員も調査の過程で知り得た事項については守秘義務を負い、 その義務に違反した場合には、所得税法によって国家公務員法上のそれよりも重い罰則が課せられるのである。

と判示しています。
「税務調査の対象となる帳簿書類は、依頼者からの金員支払いの事実等経済的な取引の側面に関するものに限られ」 とかなり限定してはいますが、公務員法上の守秘義務を理由として、質問検査権が及ぶものと理解してよさそうです。
ただし本件は、質問検査を受けたのが弁護士本人であるため、「職務上知り得た秘密」とは言えないような気もします。滞納者が弁護士のクライアントだった場合等については、なお議論がありそうですね。