徴税吏員の逡巡

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生命保険の解約は慎重に?

徴収実務において、生命保険契約上の債権の中で最も取立件数が多いのは、解約返戻金の支払請求権であろうと思います。

解約返戻金の支払請求権を差し押さえた場合に、民事執行法第155条の定める取立権に基づいて解約権を行使することの是非については、従来下級審における判決は分かれていました。

生命保険契約のうち専ら保険金受取人の生活保障あるいは社会保障の補完を目的とするものなどにあっては、その継続・解約の意思決定に債権者が干渉することは許されないと解すべきであるが、他方、生命保険契約の中でも主として貯蓄や時には利殖を主たる目的とするような契約にあっては、その解約を通常の財産権と別異に扱う理由はないと解される
(二分説:大阪地判平成5年7月16日)

債権者が生命保険契約解約前の解約返戻金支払請求権を差し押さえてこれにつき取立権を取得したときは、この解約返戻金支払請求権を具体化して取り立てるために、保険契約者の有する解約権を行使して、保険契約を解約することができるものと解するのが相当である。
(肯定説:東京地判平成10年8月26日)

この点につき最判平成11年9月9日は

生命保険契約は債務者の生活保障手段としての機能を有しており、その解約により債務者が高度障害保険金請求権又は入院給付金請求権等を失うなどの不利益を被ることがあるとしても、そのゆえに民事執行法一五三条により差押命令が取り消され、あるいは解約権の行使が権利の濫用となる場合は格別、差押禁止財産として法定されていない生命保険契約の解約返戻金請求権につき預貯金債権等と異なる取扱いをして取立ての対象から除外すべき理由は認められない

との判断を示し、この問題については肯定説を採用することで決着しました。

ただし、本判決には以下のとおり反対意見が付されました。

例えば、被保険者が末期的症状にある病に冒されているため、近々保険事故の発生により多額の保険金請求権が発生することが予測される場合や、被保険者が現実に特約に基づく入院給付金の給付を受けている場合などに、突如第三者の手によって保険契約が解約されてしまった事態を想定してみると、利益衡量的観点からみても、差押債権者による解約権の行使は、著しくその目的を逸脱したものといわざるを得ない。

(おそらく)これを受けて、徴基通67条関係6において、以下のような事情がある場合は、解約権の行使により著しい不均衡が生じないように慎重に判断することとされました。

(1) 近々保険事故の発生により多額の保険金請求権が発生することが予測される場合

(2) 被保険者が現実に特約に基づく入院給付金の給付を受けており、当該金員が療養生活費に充てられている場合

(3) 老齢又は既病歴を有する等の理由により、他の生命保険契約に新規に加入することが困難である場合

(4) 差押えに係る滞納税額と比較して解約返戻金の額が著しく少額である場合

 

実務上の取扱いとしては、滞納者に対して「生命保険解約予告書」等により通知を行うことで、滞納者に最後の納付機会を与えるとともに、介入権制度についても案内している自治体が多いのではないでしょうか。