徴税吏員の逡巡

そして絆。

新たに徴税吏員となる方へ

自治体、内示が出始める頃でしょうか。

4月から徴税吏員証を手にすることとなり、「滞納整理」という得体の知れない業務に恐々としている方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、新たに徴税吏員となる皆様に歓迎と激励の意を込めて、(こんなヒッソリと運営してるブログではありますが)滞納整理業務について僕が考えていることを綴ってみたいと思います。


日本国憲法は、その第30条において「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」と規定し、同時に第84条において、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めています。
すなわち、「法律の根拠に基づくことなしには、国家は租税を賦課・徴収することはできず、国民は租税の納付を要求されることはない」(金子宏『租税法』より引用)ということであり、この原則(租税法律主義)は、国家・国民双方に向けた憲法法理として認識されています。

また、憲法第14条第1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めています。租税法関係においては、「税負担は国民の間に担税力に即して公平に配分されなければならず、各種の租税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならない」(金子宏『租税法』より引用)ということであり、この原則(租税公平主義)は租税法律主義と並んで租税法の基本原則とされています。

 

この両原則に照らせば、租税を滞納するということは、法律によって定められた負担を履行していない状態であり、憲法が定める平等原則にも反していると言うことができます。
そのような状態を適法に解消することを目指す私たち徴税吏員の業務は、最高法規たる憲法の要請にも則したものであり、広く全ての納税者から付託されていると考えるべきです。

税を滞納されている方の中には、諸般の事情からやむなく納期内に納税ができなかったものの、少しでも早く納付しようと懸命に努力をされる方もいらっしゃいます。しかしながら一方で、十分な経済力を持ちながら、身勝手な理屈を振りかざしたり、平然と約束を破ったり、犬にでもバレるような嘘をついたりする方がいらっしゃるのも事実です。そういう方々のために仕事をしていると考えてしまうと、この仕事はどうしようもなく理不尽なものになってしまいます。

とても重要なことなので繰り返しますが、我々徴税吏員の業務は、広くすべての納税者からの付託に基づくものと考えるべきであって、ごく一部の義務不履行者のために行うものではありません。

もう一つ、徴税吏員に課された重大な使命が税財源の確保です。
言うまでもないことですが、地方税は、地方公共団体が存立するための財政的な裏付けであり、地方税の徴収は、地方の財政力を確保するうえで極めて重要なものです。
他方、上記のとおり租税は法律上の根拠にしたがって公平・平等に課税されます。このことは裏を返せば、法律の定める要件を満たせば(債務者の事情に関わらず)課税が為されるということであり、私債権と比較すると、不履行となる確率は高まるという特性があります。
それゆえ、地方税法において、私債権に対する優先効力や、執行のための強制力等、強い権力が与えられています。
地方税が、地方公共団体の一般税源として行政の活動全般を支えているものであり、住民生活の維持発展を担保する基礎的な収入である点から見ても、その適法な確保は、広く全ての納税者から付託されていると考えるべきです。

税金が滞納となったときは、ペナルティとして延滞金があり、強制的に徴収する仕組みである「滞納整理」がある。
その滞納整理を司る我々徴税吏員の存在があるから、住民は「税金は期限内に納めるべきもの」「税は公平なもの」という意識を持ち続けることができるのです。
その意味では、徴税吏員は「納税秩序を維持する最後の砦」であると言うことができるのではないでしょうか。