徴税吏員の逡巡

そして絆。

違法な差押えと行政処分の無効基準

川崎市で、同姓同名で生年月日も同じ、別人の口座を差し押さえていた事案が発生しました。

 

同姓同名別人の口座差し押さえ|NHK 首都圏のニュース

 

全国の徴税吏員から、「三点セット(住所・氏名・生年月日)で確認でしょ!?」との声が聞こえてきそうな事案ですが…

 

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言うまでもなく、差押えの対象となる財産は滞納者に帰属するものでなければなりません。我らがバイブル、「国税徴収法精解」にも、「納税者に帰属しない財産を差し押さえた場合には、違法処分として取り消すべきであり、審査請求等の不服申し立ての対象となる(場合によっては無効な処分ともなる)」との記述があります。

 

こうなると気になるのは、「取り消すべき」なのか「無効」なのかという点ですが、一般に、行政処分が無効であるというためには、「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵」(最判昭和34年9月22日)がなければなりません。

 

前例がないかと探してみましたが、(内容が内容なので、訴訟まで発展した事例は少ないようですが)東京地判昭和44年10月29日では、第三者所有の不動産に対する差押処分及び公売処分の効力について、以下のとおり判示しています。

滞納者の所有に絶対に帰属していない第三
者所有の不動産を誤つて滞納者の所有として差押え、これに基づいてなされた公売処分は、目的不動産の所有権を競落人に取得させる効果を生じないとする意味において常に無効と解すべきであつて、このような処分の瑕疵は、外見上明白であると否とにかかわらず、また公売処分の完結をまつまでもなく当然に当該滞納処分の右の意味における無効原因を形成するものといわなければならない

上記の東京地判の事例は、滞納者名義で所有権保存登記がなされていたため、「処分成立の当初から、誤認であることが外見上客観的に明白である(最判昭和36年3月7日)」とは言い切れず、第三者が所有する財産の差押えは、明白性を欠いてもなお、無効であると判示していると読むことができます。

さらに、東京高判昭和34年7月7日は、農地委員会による農地買収及び売渡処分の無効確認請求事件ですが、

通常であれば一応の調査により到底小作地と誤認すべからざる本件土地を、その調査を尽くさないため小作地と誤認して樹立した前記買収計画は重大にして明白な瑕疵を帯び無効とすべきである

として、通常行う調査により判明するであろう過誤についても「明白」の範囲に含めています。

 

今般の川崎市の事例も、通常行うべき調査を行っていれば、防ぐことができたはずです。上記東京高判の言を借りれば、「いかにも粗漏かつ軽率」であると言わざるを得ません。

なお、この件について、川崎市が報道発表資料をホームページで公開していますが、「銀行が差押えを実施した」「銀行が差押えを解除した」という表現は、いかがなものかと思います。

 

https://www.city.kawasaki.jp/templates/press/cmsfiles/contents/0000124/124542/houdouhappyousiryou.pdf