徴税吏員の逡巡

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生活保護費は減額されるか

滋賀県が、大津市守山市が行った生活保護費の減額処分について、理由の説明が不十分であり取消しを免れないとの裁決をしました。

大津市、守山市の生活保護費引き下げ 知事裁決で取り消し:中日新聞Web

市の福祉事務所長が行った生活保護法に基づく保護変更決定処分については、同法第64条の規定により都道府県知事が審査庁となります。

そこで、滋賀県ホームページを見てみると、裁決書自体は見つかりませんでしたが、行政不服審査会による答申が掲載されていました。

https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5206941.pdf

報道では、「知事裁決での取り消しは、全国的に珍しいという」とされていますが、行政不服審査会の答申によれば、滋賀県知事は請求棄却の判断をしていたものの、審査員及び行政不服審査会が請求認容の判断をした、ということのようです。

 

記事をななめ読みしていると、「国の基準改定で生活保護費が引き下げられたのは、最低限度の生活を保障する憲法に違反している」などという請求人の主張が認められたように読めてしまいますが、審査会は答申の中で生活保護費については触れていませんし、審理員意見書においても、「本件処分は、改正後の保護の基準を正しく適用して生活扶助費を算定したものであり、本件処分の扶助額の認定に違法な点は認められない」との判断を示しています。

本件裁決後の見通しとしては、審理員意見書にもあるとおり、「本件処分を取り消して改めて充分な理解の得られる理由を付したうえで処分をやり直す」ことになると考えられ、金額については従前の処分と変わらないものになると思われます。

加えて、生活保護法第69条の規定により、生活保護の実施機関又は支給機関がした処分の取消しの訴えについては審査請求前置とされていますので、請求を認容する裁決が出された本件については、抗告訴訟が提起されることもないでしょう。

一見すると処分庁が負けたように見える本件ですが、「試合に負けて勝負に勝った」という結果なのかもしれません。

 

 

 

なぜ謝るのか

静岡県の川勝知事が、行政代執行により所有物件を撤去された元地権者に対し、行政代執行を陳謝したらしいです。

沼津鉄道高架、行政代執行 川勝知事が元地権者訪ね「おわび」|静岡新聞アットエス

沼津市のケースは、収用委員会による権利取得裁決及び明渡裁決がなされており、既に明渡の期限は徒過していますので、土地収用法第102条の2第2項の適用を受けます。

・・・土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき、。・・・は、都道府県知事は、起業者の請求により、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

事業の起業者は静岡県(と沼津市)なので、知事の請求に基づいて、知事が代執行したことについて、知事が陳謝する、という、冗談のような事態が起こっているわけです。

さらに報道によれば、

知事は元地権者について「最後まで節を曲げず、真にご立派だった」とし「沼津市の発展に向けた歴史の一ページに残るとお伝えした」と述べた。

とありますが、これが法律の定める手続によって課された義務を履行しない者に対してかける言葉でしょうか。なにかの間違いであることを祈るばかりです。

当の(元)地権者にも見透かされているとおり、ただのパフォーマンスなのでしょうが、あまりにも考えが浅すぎます。

あ、この「代執行お詫び」の記事と「川勝知事、4期目出馬明言せず」の記事を並べた静岡新聞は、センスがいいと思いますね。

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行政法の教科書には、行政上の強制執行は、

①行政代執行

②強制徴収

③直接強制

④執行罰

の4 つの基本類型に分類されるとされています。強制徴収を日常業務とする我々徴税吏員に置き換えてみれば、上記のケースは、財産を差し押さえた滞納者のところに、首長が謝罪に行くようなものです。こんなことが、許されるはずがありません。

この事業を推進するために日夜業務に取り組んでいる、静岡県交通基盤整備部、土木事務所及び収用委員会事務局等の職員の心中は、察するに余りあります。

関係諸氏におかれましては、どうかモチベーションを保っていただき、粛々と事業を進めていただければと思います。

 

 

 

猶予制度は何処へ向かうのか

コロナウイルス感染拡大に伴う地方税法の徴収猶予の特例措置は、令和3 年2月1日までに納期限が到来する地方税が対象とされていました。つまり特例が適用される期間は終了したわけですが、引き続き「柔軟かつ適切な対応」をするよう、総務省から通知が出されています。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000728769.pdf

 

この特例が設けられる前においても、地方税法第8節(第15条から15条の9)において、納税の猶予に関する規定が置かれていて、ざっくり言うと、災害や盗難・病気、事業廃止等により納付ができない場合は「徴収の猶予」、生活困窮や事業継続を理由とする場合は「換価の猶予」を適用することとされています。

特例による猶予については、「一定の期間(1か月以上)において 収入が大幅に減少(概ね20%以上の減)した場合」との要件が定められていたほか、

①担保の提供が不要

②延滞金は全額免除

③提出書類の簡略化

など、納税者が容易に猶予制度を利用できるよう、措置が講じられていました。

 

ただ、延滞金を免除して1年間徴収を猶予するということは、別の言い方をすれば「来年2年分納めてくださいね」ということなので、特に個人のお客様などは「なんだ、免除じゃなかったのかよ、ケッ!」とおっしゃって、申請自体をなさらないケースも多く、実際総務省の統計においても、税目別に見ると全体の半数弱を法人二税が占めています。

総務省|新型コロナウイルス感染症に係る地方税の「徴収猶予の特例」の適用状況(令和2年4〜11月分)

そのせいかどうかは不明ですが、2021年度税制改正において、特例の延長を求める声もあったものの、資金繰りに苦しむ個人事業主や企業の支援は実質無利子・無担保融資で対応すべきだとの意見が多く、延長が見送られた経緯があります。

納税猶予、2月1日申請終了 コロナ対策、1年間の特例:時事ドットコム

 

さて、前掲の総務省通知においては、「柔軟に」「適切に」との表現ばかりで、具体的な対応方法については言及がありません。

この点、現場が混乱する原因になるような気もしますが、行間を読むとすれば、「特例措置は終わったけど、引き続き同じように扱おうよ」ということなのでしょう。と、なると、上記①〜③の措置について、地方税法第15条以下の規定による猶予についても適用させる、ということになります。

①については、担保の徴取については条例規定事項であるので、自治体の税条例の中に「特別の事情があるときは担保を徴さない」旨の規定があれば問題ありませんし、②についても、延滞金については原則2分の1免除ではありますが、裁量免除の規定(地税15の9②)があるので、全額免除とすることも制度上は可能と解されます。

問題なのは③で、特例猶予に係る申請書については、総務省が様式を作成し、これを使用するよう各自治体あて指示があったのですが、当該様式には「地方税法附則第59条第1項の規定により、以下のとおり徴収の猶予を申請します」との記述があるのです。

附則59条の適用を受けられるのは「特定日(令和3年2月1日)まで」と規定されていますので、15条以下の規定により猶予の申請をする場合は、特例の様式によらず、従来の猶予申請書を使用する必要があるでしょう。添付書類の簡素化についても、(総務省通知には『柔軟に』とされているものの)今ひとつ根拠がハッキリしないので、原則どおり提出を求める方が無難な気もするのですが…

 

 

 

 

そんなにカフェラテが飲みたかったのか

 熊本市の職員が、コンビニエンスストアでカフェラテを盗んだとして懲戒免職処分を受けました。

100円で200円のカフェラテ注ぐ 熊本市が職員処分:朝日新聞デジタル

処分が厳しすぎる、との声もあがっているようですが…

 

公務員の非行については、地方公務員法29条1項3号の規定により、「懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分」の対象とされていますが、どのような懲戒処分が科されるかについては、各行政機関が定める「懲戒処分の指針」に依拠しているようです。

熊本市の「懲戒処分の指針」によれば、確かに「他人の金品を盗んだ職員は、免職又は停職とする。」と規定されていますが、具体的な処分内容の決定にあたっては、

(1) 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか。
(2) 故意又は過失の度合いはどの程度であったか。
(3) 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか。
(4) 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか。
(5) 過去に非違行為を行っているか。

等の点ほか、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等についても考慮のしたうえで判断することとされています。

https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=29857&sub_id=1&flid=216712

 

既往の判例においては、

懲戒処分を行うかどうか及び懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者が同裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべき

と判示されています(最判昭和52年12月20日)。

妥当性・裁量権逸脱の有無等については、やはりケースバイケースとなっているようですが、「社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものというべきであって、違法なものとして免れないというべき」と判示した例として、大阪地判平成24年1月16日があります。

 

その理由としては、

①被害額が少額だったこと(766円)。

②直後に原告の夫により商品の代金が支払われ、原告が本件行為発覚直後から事実を素直に認め、反省の態度を示していること。

③本件処分後、被害店舗の店長が原告に対する寛大な処分を求めて嘆願書を提出していること。

④原告は、本件処分以前には処分歴はなく、同僚からは、真面目で生徒の指導に熱心に取り組んでいるとの評価も受けており、勤務する高校の常勤教職員63名から、寛大な処分を求めて嘆願書が提出されていること。

などが挙げられ、懲戒免職によって教職員としての地位及び教員の資格を失うことになることに加えて、退職金の受給資格をも喪失することとなり、原告が受ける打撃は極めて大きいことを考慮すると、本件処分は重きに失するものといわざるを得ない、と判示しています。

 

今回のケースで、処分を受けた職員が不服を申し立てるかは不明ですが、ちょっと司法判断を見てみたい気もしますね。

 

 

 

 

 

選挙管理委員会の独立性

戸田市選挙管理委員会が、スーパークレイジー君議員の当選無効を求める異議申し出を受理したと発表しました。

スーパークレイジー君市議の「当選無効求める」…市選管が異議申し出を受理 : 地方選 : 選挙・世論調査 : 読売新聞オンライン

 

市町村議会議員の被選挙権については、公職選挙法第10条第5項に「市町村の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満25年以上のもの」と規定されています。

「選挙権を有する者」については、同法第9条第2項で「日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者」とされていますので、市町村議会議員の被選挙権には住所要件があることが明らかです。

首長(同法第10条第1項第4号、第6号)や国会議員(同項第1号、第2号)については住所が要件とはされていませんので、やはり地方議会議員たる者、地域の代表として地域の問題を吸い上げ、地域の代表として行動することが求められている、ということなのでしょう(3ヶ月の居住で地域の問題を把握できるかどうかは別として)。

 

判例の蓄積もあるようなので、いずれ適切な裁決がなされると思われますが、気になるのは戸田市長のコメントです。

この度の本市選挙管理委員会事務局職員の、スーパークレイジー君議員に対する対応につきましては、不適切なものであり、遺憾に思っております。

当該職員につきましては、処分等も含めて厳正に対処してまいります。

なお、この度の市議会議員選挙の当選結果に対する異議申し出にかかる調査につきましては、選挙管理委員会とも連携し、事務執行体制に万全を期してまいります

選挙管理委員会事務局職員の対応についての市長コメント - 戸田市公式サイト

 

選挙管理委員会は独立した行政機関なので、その事務に従事する職員の行為の是非や対処の方針について、首長がコメントすることは適切なのか、疑問が残るところではあります。

まして、「異議申し出にかかる調査につきましては、選挙管理委員会とも連携し」という部分については、裁決の公平性に疑念を抱かれかねないのでは。

 

選挙管理委員会事務局については、その性質上、他の行政委員会事務局との兼務体制、職員も首長部局の総務系所属との併任としている自治体が多いのではないか思います。

職員の身分や事務執行において、首長部局と行政委員会との境界が曖昧になることもあるでしょうが、だけらこそ、注意しなければならない点なのではないかと考えます。

 

 

 

 

 

相続登記の義務化は進むのか

法制審議会が、相続や住所・氏名を変更した時に土地の登記を義務付ける法改正案を答申しました。

土地登記の相続3年内に 法制審答申、違反なら過料: 日本経済新聞

相続から3年以内に申請しなければ10万円以下の過料を科す。

とのことですが、過料制度で登記手続の義務化が進むのか、疑問が残るところではあります。

 

不動産の権利に関する登記については、(契約の相手方との間では義務とされることはあるでしょうが)公法上の義務とはされていません。これは、権利に関する登記が、 不動産に係る権利変動について第三者対抗要件を具備するためにされるものであり(民法第 177 条)、私的自治の原則に従って、必要に応じてその登記を申請すればよいからであると解されています。
他方、表示に関する登記については、現行の不動産登記法にも過料に関する規定が置かれています。

不動産登記法第164条

 36条、第37条第1項若しくは第2項、第42条、第47条第1項(第49条第2項において準用する場合を含む。)、第49条第1項、第3項若しくは第4項、第51条第1項から第4項まで、第57条又は第58条第6項若しくは第7項の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。

土地・建物の表題登記及び滅失登記、土地の地目・地積更正登記などは、現行法においても、登記懈怠があれば過料に処することとされていますが、この過料については、実際には適用された事例がほとんどないことは、実務家であれば周知の事実です。

相続登記を過料をもって義務化するのであれば、法定期限内に登記手続を行わない場合、現実に過料を科すという運用が必要ですが、その前提として、登記官が登記義務の懈怠の事実をどのようにして把握するのか、という課題があります。

また、現行制度上は、法定相続分をもって権利を承継した相続人の場合には、登記を経由しなくても、第三者に対抗することができることとされています。

最判昭和38年2月22日

相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。

法定相続分による相続に関しては、手間暇をかけてまで登記をするメリットもないように思われます。

 

相続に関する手続は、不動産登記だけでなく、戸籍・住民登録、金融機関における手続、税関係、保険関係、果ては携帯電話の解約まで非常に多岐に亘り、かつ、それぞれの機関において、それぞれのルールに基づいた対応を求められます。

ワンストップ的な観点から、これらの機関に対する提出書類を一元化することができれば、相続人の負担軽減にもなりますし、ひいては相続登記に係るハードルも下がる気がするのですが…

 

自動車の差押えと占有

三重県では、11月と12月の2か月間を「差押強化月間」として徴収強化に取り組んでいるとのことですが、今年度の成果として、12月末時点における収入未済額が、10月末時点から約3,500万円縮減したと発表しています。

https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0008300058.htm

滞納処分の状況として

差押強化月間中(11月、12月)に、預貯金・給与・自動車等の差押処分を664件執行するなど徴収強化に取り組みました。
また、差押自動車に対して、タイヤロックを20件、搬出を1件実施しました。

とのことですが、参考として滞納処分の内訳が記載されており、

【差押強化月間中の差押件数】
令和2年度   664件(△445件)
(預貯金 173件、給与・年金等 221件、自動車 236件、他 34件)
令和元年度 1,109件
(預貯金 330件、給与・年金等 341件、自動車 394件、他 44件)

ということで、処分件数自体は、前年度と比較すると大幅に減少しています。
預貯金については特に減少幅が大きく、やはり一昨年の大阪高裁判決が影響しているものと推察されます。

 

興味深いのは、自動車差押件数236件に対して、タイヤロック20件、搬出1件という部分です。

自動車の差押手続は、国税徴収法上、不動産の差押えに関する規定を準用することとされていますので(徴71①)、差押えの効力発生要件は、滞納者に対する差押書の送達若しくは差押えの登録のいずれか早い方となります。
また、タイヤロックについては、徴収職員が自動車を占有したうえで滞納者等に当該自動車を保管させる場合における「自動車の運行・・・をさせないための適当な措置」(徴71⑤後段)であり、滞納者等の申立てにより運行の許可をする場合を除いては、この措置を「講じなければならない」とされています。
そうなると、タイヤロック(運行禁止措置)も搬出もされない215件の差押自動車については、「滞納者・・・の申立てにより、その運行・・・を許可」したのでしょうか。

もう一つの可能性としては、保管命令にしても運行禁止措置にしても、徴収職員の占有が前提になっていますので、「自動車登録のみ差し押さえ、占有はしていない」という立場をとっているのかもしれません。

ここで問題になってくるのは、占有について規定している国税徴収法第71条第3項の解釈です。

国税徴収法第71条

3 税務署長は、自動車、建設機械又は小型船舶を差し押さえた場合には、滞納者に対し、これらの引き渡しを命じ、徴収職員にこれらの占有をさせることができる。

「できる」規定なので、一見すると、差し押さえた自動車を占有するか否かについては、税務署長(首長)の裁量である、とも読めますが、自動車については「本来動産性が強く、その交換価値の減耗度合も大きいので、その点を考慮して、徴収職員がこれらの占有を奪うことができることとしたのである」(国税徴収法精解)との考えに立つのであれば、権限を付与する趣旨での「できる」であるような気もします。

 

また、自動車の換価は徴収職員が占有した後に行うとの規定(徴91)や、競売開始決定が発せられた日から1か月が経過しても執行官が自動車を取り上げることができないときは、手続が取り消されるという民事執行上の取扱い(民事執行規則97条,民事執行法120条)に鑑みても、占有をせずに登録のみ差し押さえる、というのは、違和感があります。