徴税吏員の逡巡

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公印はどこへいったか

福島市で、納税課専用の公印が紛失した、とのニュースです。

福島市長の公印紛失 悪用される可能性も 市民に注意呼びかけ|NHK 福島県のニュース

公印は常に細心の注意を払って管理しているはずなので、執務室内のどこかにある可能性が高いとは思いますが、所在が確認できない以上、紛失と判断し、然るべき措置を講じるのが適当でしょう。

報道にもあるとおり、市長の公印は滞納処分の各種調書や財産の調査文書等に押印されるものですが、実務上はシステムから出力される帳票に電子印を刷り込むことで対応している文書も多いと思われます。実際に、福島市の公印規程には以下のとおり規定されています。

福島市公印規程第10条第1項

文書を一時に多量に作成する場合その他特に必要があると総務部長が認めた場合は、前条第一項の規定にかかわらず、当該文書に事前に公印を押印し、又は公印の押印に代えて印影を当該文書に刷り込み、若しくは電子計算機に記録した公印の印影(以下「電子印」という。)を当該文書に打ち出すことができる。

福島市公印規則

さらには同規程の別表を見ると、納税課専用の市長印の用途は「市税等、後期高齢者医療保険料及び介護保険料の滞納処分に関する文書」、管理者は「納税課長」とされています。このことから、納税課用の市長印は、納税課内に保管され、滞納処分に関する文書にのみ押印(電子ではなく物理的に)されていたものと推察されます。となれば、使用する職員はかなり限定されるはずですから、見つかっても良さそうなものですけどね…。

ちょっと気になったのは、権限に関する規定です。

福島市税条例施行規則には、

市長の権限に属する事務のうち、次に掲げる事務を徴税吏員に委任する。

一 市税の賦課徴収に関する質問又は書類その他の物件の検査
二 徴収金の滞納処分としての財産の捜索
三 差押え及び財産差押えのための質問又は検査

との規定が置かれていますが、上記の権限は国税徴収法上、「徴収職員(徴税吏員)」に与えられているものです。地方税法によれば、徴税吏員は「長及びその委任を受けた職員」とされていますから、市長が徴税吏員に委任をするというのも違和感を覚えますし、そもそもこれらの権限は市長にのみ与えられているものでもありません。

一方で、上記の規定が置かれていることで、文理上、徴税吏員の独断による滞納処分は可能と解する余地はないように思われます。弊社でも通常時は起案ー決裁の流れを経ていますが、倒産対応時や捜索時など急を要する場合は徴税吏員の個人印で調書を作成します。

福島市の事務専決規程によれば、滞納処分については部長専決とされているようですが、それらの緊急時においても決裁を経なければ滞納処分が行えないのだとすると、支障をきたす場面もあるのではないでしょうか。

福島市事務決裁規程

 

 

用地取得価格を決めるのは?

奈良市が建設中の火葬場を巡って、不当に高い価格で用地を買収したとして、市側が市長及び地権者に対して損害賠償を請求することが確定しました。

火葬場訴訟で奈良市長らに1億円超の賠償請求確定 - 産経ニュース

裁判所のサイトを見ても、まだ判決文は掲載されていないようですが、原告である市民団体のサイトで控訴審の判決文が公開されています。

控訴審 判決、主文、事件概要 - 奈良市新斎苑の用地買収の問題を考える会

奈良市用地取得事務処理要領には、公共事業の施行に必要な用地の取得に当たっては、土地売買価格は不動産鑑定士による鑑定評価額を上限として算定するものとされているとのことですが、判決文によれば奈良市は、二者の鑑定士による鑑定の平均値が5,129万円だったところ、1億6,722万円で契約を締結した、という事案です。

契約に至る経緯について、以下のとおり記載されています。

(地権者から)本件買収地の購入費として6億円くらいはみてほしい、合併特例債を使えないようにしようと思えば、自分にはそのようにできる、鑑定評価額が低ければ、本件買収地を売るつもりはないなどと言われていたこともあって、鑑定評価額を引き上げるため、本件鑑定業者らに対し、公共用地の取得事例を基礎に含めて鑑定するよう要請したこと、しかしながら、本件鑑定業者らから、そのような要請に応じることは困難であると伝えられた…

この鑑定士の職業倫理の高さですよ。それにひきかえ…。

(かつて存在した、「日本○路公団」なる団体は、無茶な価格操作を指示することで名を馳せており、地元鑑定士は仕事を受けたがらない、というウワサを聞いたことがあります。ウワサですよ。)

市側も言い分はあるようですが、地権者との協議において土地価格が争点となっていたことは事実なのですから、土地収用法の規定に基づいて裁決を申請すれば良いでしょう。

このような事例を作ること自体、地権者に「ゴネ得」があると誤認させる材料になります。それだけでも円滑な用地取得が阻害される要因になり得ますから、関係者には猛省を促したいですね。

 

 

徴収率から見えること

栃木県内の市町村税の徴収率(令和2年度決算)が公表されました。

市町村税 徴収率95.9% コロナ影響、11年ぶり減 栃木県2020年度|社会,政治行政|下野新聞「SOON」ニュース|下野新聞 SOON(スーン)

気になったのは那須烏山市です。

県平均95.1%のところ、マイナス10ポイントの85.1%はかなりインパクトのある数値です。市議会の一般質問でも取り上げられています。

去る18日付新聞で報道された本県の2019年度市町村税徴収率一覧の中で、本市は不名誉ながら群を抜いて県下最下位であります。市長はこの記事を目にしていかに感じたでしょうか。善良な納税者にあっては、行政に不信感が湧くはずであります。

これに対する市長の答弁は以下のとおりです。

市税徴収率を引き下げている大きな要因は、法人数社による固定資産税の大口滞納であります。本市では、それら大口滞納への不動産の差押えを執行済みであり、今後、それらの不動産の公売を進める検討している状況でございます。
しかしながら、当該差押えについては、国やほかの自治体との関与もあることから、それらの関係機関と連携をしていかなければ、公売の実現は不可能であります。一般的な公売が実現できるよう、関係機関との調整を進めてまいりたいと存じております。

https://www.city.nasukarasuyama.lg.jp/data/doc/1610258917_doc_4_0.pdf

「関係機関と連携していかなければ、公売の実現は不可能」というのがどのような状況なのか、これだけだと分かりませんが、まあ何らかの事情はあるのでしょう。

同市の令和2年度「税務概要」を見ると、合計調定額に占める滞納繰越調定額の比率が14%を超えていることが分かります(29ページね)。

https://www.city.nasukarasuyama.lg.jp/data/doc/1632709627_doc_22_0.pdf

全国平均だと2.2%程ですから、この値は異常なほど高いと言っても過言ではありません。「税務概要」をよく見てみると、個人市民税では現年99.21%、滞繰54.36%ということなので、決して低くはないのですが、(固定の)滞繰調定額が大きすぎるため、合計徴収率が上がらないという状況に陥っています。

今回の報道を見ても、やはり注目されるのは合計徴収率なので、職員の努力を適切に評価してもらうためにも、累積した滞納繰越額の整理に本腰を入れるべきと考えます。

 

【滞納整理の現場から】その3 法人に対する送達

今回検討したケースの概略は以下のとおりです。

滞納法人Aは登記上の所在地に営業実態がないため、これまでは代表者Bの住所地に書類を送達していたが、先ごろBが死亡した。
Bには相続人がないが、Aの法人登記簿にはBが代表取締役として登記されているほか、取締役としてCの記載がある。
Aに対する賦課徴収関係書類を、Cに送付してよいか。

国税通則法の基本通達には、以下のとおり明示されています。

国税通則法基本通達第12条関係2
法人が事実上解散し、または清算を結了し、その所在が不明であるとき(たとえば、登記簿上の法人の所在地に事務所がないとき。)は、その法人を代表する権限を有する者の住所等に書類を送達するものとする。

事例では代表取締役が死亡したということですが、この事実を、「法人を代表すべき権限を有する者を欠いている状態」と判断するのか、又は「代表取締役以外の取締役が代表権限を有している」と判断するのかが問題となります。この点について、名古屋地判昭和36年11月29日は以下のとおり判示しています。

右の如く民法第五三条と私立学校法第三七条とは理事の代表権並びに代表権の制限について同趣旨の規定をしているものと認められるが、学校法人の代表権に加えた制限は必要的登記事項としてこれを公示すべきことを義務付け、その登記あれば善意悪意を問わずすべての第三者に対抗し得る効力を有するところからみれば、学校法人における制限代表者の地位は民法のそれと性質を異にし、対外的に学校法人を代表する機関に固定されたものというべきであるから、かかる代表者が死亡その他の事由により欠員となつたときは他の理事において当然に代表権限を有するに至るものとは解されない。
即ち、かかる場合は法人を代表する権限を有する者を欠くに至つたものと解するを相当とする。

会社法においても、代表取締役を定めた場合、(いわゆるヒラの)取締役には代表権はないものとされていますし、

会社法第349条第1項
取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する
者を定めた場合は、この限りでない。

代表取締役の住所氏名は登記事項とされていますから(会社911 ③(14))、上記の学校法人に係る判示に鑑みれば、「法人を代表する権限を有する者と欠く」状態であると解されます。したがって、代表権のないヒラ取締役(事例ではC)に対する送達は適切ではありません。

では公示送達はどうでしょうか。

地方税法第20条の2第1項
地方団体の長は、前条の規定により送達すべき書類について、その送達を受けるべき者の住所、居所、事務所及び事業所が明らかでない場合又は外国においてすべき送達につき困難な事情があると認められる場合には、その送達に代えて公示送達をすることができる。

文理上、代表者が存在することは明らかであるものの住所及び居所が不明である場合であれば公示送達の要件に該当するものと考えられますが、事例のように代表権を有する者を「欠いている」場合については、公示送達は適切とは言えないでしょう。

結論として、本件については、一時代表取締役の選任申立てにより 、書類の受領権限を定める
必要があるとの結論に至りました。

会社法第351条
代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役(次項の 一時代表取締役の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有する。

2 前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができる。

交付要求いろいろ

意外と意識してない人もいるのですが、交付要求は「しなければならない」んですよね。

国税徴収法第82条第1項

滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合には、税務署長は、執行機関・・・に対し、滞納に係る国税につき、交付要求書により交付要求をしなければならない。

「交付要求は、滞納者の財産に対して強制換価手続が行われた場合において、その手続から滞納国税への交付(配当)を求める手続」(税大講本)ですから、先行している強制換価手続に対して行うものです。しかし、滞納処分による差押えがされている不動産についても、後行の私債権者は競売の申し立てをすることができ、滞納処分の執行機関の同意があれば、競売を続行することができるとされています。

滞調法第13条第1項

滞納処分による差押え後に強制競売の開始決定をした不動産については、民事執行法第四十九条の規定による手続その他売却のための手続は、滞納処分による差押えが解除された後でなければ、することができない。ただし、強制執行続行の決定があつたときは、この限りでない。

この場合、換価権は後行の私債権者に移りますから、滞納処分の執行機関は交付要求をする必要があるわけですが、先行していた滞納処分は(その時点では)失効するわけでも解除されるわけでもありませんので、上掲の82条の規定では、「強制換価手続」が先行の滞納処分を指すのか後行の競売を指すのか判然としません。

そこでこの場合については、滞調法に別に規定を置いて、執行官に交付要求をするべき旨を明示しています(俗に『滞調法の交付要求』と言われます)。

滞調法第10条第3項

強制執行続行の決定があつたときは、徴収職員等は、滞納処分による差押えに係る国税及びその滞納処分費並びに地方税その他の徴収金(以下「差押え国税等」という。)を徴収するには、執行官にその交付を求めなければならない。

他方、差押財産が債権の場合は、滞納処分と強制執行の先後によって義務供託か権利供託となりますが、強制執行が先行している場合は差押えに係る債権の全額について供託義務が生じます。供託された金銭は、配当機関(裁判所)により配当されることとなりますが、この際、滞納処分の執行機関が裁判所に対して債権差押通知書もしくは事情届を提出すれば、滞納処分による差押えの日に交付要求があったものとみなされます(こちらは『みなし交付要求』と呼ばれます)。

どちらの手続にしても、一度実務でやってみると流れが良く分かると思うのですが、教科書で読むだけだと分かりにくいですよね…。

徴収率に歴史あり

2020年度の千葉県内の市町村税の徴収率(現滞計)が96.2%(前年度マイナス0.3ポイント)となったようです。

令和2年度市町村税の収入額及び徴収率の概要/千葉県

他の自治体でも同様のデータが公表されていますが、ざっと見たところ、千葉県のサイトが内容充実で見やすかったので引用させてもらいました。平成13年度からの徴収率の推移も掲載されています。

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現年・滞繰合わせた合計徴収率を見ると、それまで停滞傾向だった徴収率が平成16年度から上昇に転じ、19年度まで顕著な改善傾向が見られます。これは他の多くの自治体でも見られる傾向で、全国の市町村税滞納残高を見ても、それまでは増加の一途を辿っていた滞納額が、平成15年度を境に減少に転じ、以降18年度まで減少を続けています。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000601511.pdf

全国的に滞納額が減少した要因の一つに、平成17年3月29日に策定された「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針」が挙げられます。

https://www.soumu.go.jp/iken/pdf/100512_1.pdf

指針には、「7 自主性・自律性の高い財政運営の確保」という項目が設けられており、地方税については以下のとおり明記されています。

三位一体の改革における税源移譲の進展や税負担の公正確保の必要性等を踏まえ、地方税の徴収率の一層の向上に積極的に取り組むこと。また、その他の収入等についても、受益者負担の適正化や徴収率の向上等に努めるなど自主財源の確保に努めること。

さらに自治体に対しては、指針に掲げられた事項について、「可能な限り目標の数値化や具体的かつ住民にわかりやすい指標を用い」た「集中改革プラン」を策定・公表することを要求しています。これを受けて、多くの自治体が集中改革プランにおいて徴収率の目標数値を設定し、滞納処分を中心とした滞納整理を実践することで、徴収率が向上したものと考えられます。

千葉県のグラフをもう少しよく見ると、現年分の徴収率が平成19年度に下落に転じていることが分かります。以降も横ばい状態が続き、98%台を回復するまでに平成23年度までかかっていますが、これは、指針でも触れられている「三位一体の改革における税源移譲」に起因するものと考えられます。

総務省|税源移譲|三位一体の改革の全体像

指針の策定当時、既に国から地方への3兆円規模の税源移譲は決定していました。移譲というと聞こえは良いですが、これは同時に滞納の問題もついてくることを意味しています。滞納残高のグラフを見てみると、平成18年度の住民税滞納残高6,958億円に対し、19年度の滞納残高は8,253億円と、一挙に1,300億円もの滞納増加となったことが分かります。急増した滞納繰越事案の整理に追われ、充分な現年対策が打てなかったとしても、不思議ではありません。また、滞繰分の調定が増加すると、現滞計の徴収率は悪化しますから、20年度以降、合計徴収率も頭打ち傾向となっているのも見てとれます。

千葉県のサイトに掲載されている別のグラフによれば、平成23年度の全国徴収率は93.7%となっており、そこから令和元年度までで約4ポイント(!)上昇させていることが分かります。この間の全国の吏員諸氏の努力に敬意を表するとともに、現在滞納整理に従事する者の一人として、身が引き締まる思いです。

 

【滞納整理の現場から】その2 滞納処分と相続②

第1回は、差押え後に滞納者が死亡したケースを取り上げましたが 、滞納者が死亡後に差し押さえる場合はどうなるでしょう。

国税徴収法第139条第2項
滞納者の死亡後その国税につき滞納者の名義の財産に対してした差押えは、当該国税につきその財産を有する相続人に対してされたものとみなす。ただし、徴収職員がその死亡を知つていたときは、この限りでない。

「滞納者名義の財産」については、国税徴収法基本通達は以下のとおり規定していますが、

国税徴収法基本通達第139条関係5

法第139条第2項本文の「滞納者の名義の財産」とは、差押えに当たり、徴収職員が財産の帰属を名義によって判断する財産・・・に限られず、社会通念上滞納者の名義の財産と認められるものをいう。

実務上は、登記登録を第三者対抗要件とする財産(主として不動産と登録自動車ですかね)が大多数を占めると思われます。「徴税吏員が死亡の事実を知らなかったとき」に限って、死亡した滞納者名義の財産に対する差押えが認められる、という趣旨ですね。

滞納者の死亡を徴税吏員が把握していれば、当然相続人に対して滞納処分を行うこととなりますが、相続放棄の可能性もありますので、実務上は承継通知の発送から3ヶ月程度は様子を見ることが多いと思われます。

民法第915条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

※3ヶ月以上経過しても相続放棄が認められるケースもあるので、 注意が必要です。

最判昭和59年4月27日
熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、・・・相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、・・・熟慮期間は 相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。

今回検討したケースの概略は以下のとおりです。

不動産差押え中の滞納者(A)が死亡し、相続人は子2名(B・C )。
当該不動産は従前から第三者に賃貸しており、その賃料はBが一括して受け取っている。現段階で相続登記は行われていない。
当該不動産に係る固定資産税については、Aの死亡後、Bに対してのみ告知しており、Bから納付の申し出はあるものの、納付実績はない。賃料の差押えを検討しているが、差押えの相手方はBとなるのか、それとも賃料を受領していないCも含むべきか。

まずは賃貸借契約の内容を確認することが先決ですが、聴取したと ころ、先代からの貸し借りであり、特に契約書等も作成していない、とのこと。滞納者に聞いても知らんの一点張りで、遺産分割についての意向も明らかにしない、という状況でした。

この場合問題となるのは、賃料債権の性質です。
この点につき、最判平成17年9月8日は以下のとおり判示してい ます。

遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間 、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきで あって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。
遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるもので あるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した 上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。

これを本件に当てはめて考えれば、遺産分割協議が成立していない 以上、本件賃料はB及びCがそれぞれ2分の1ずつ取得しているものと解されます。 納税通知書はBに対してしか送付していませんから、Cに対する課税の告知は成立しておらず、このままでは賃料の2分の1については差し押さえることができません。したがって、本件についてはCに対する告知・督促から、という結論になりました。