徴税吏員の逡巡

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農地の公売

浅学にして知らなかったのですが、

農地法第23条

国税徴収法による滞納処分により公売に付された農地又は採草放牧地について買受人がない場合に、当該滞納処分を行う行政庁が、農林水産省令で定める手続に従い、農林水産大臣に対し、国がその土地を第十条第一項の政令で定めるところにより算出した額で買い取るべき旨の申出をしたときは、農林水産大臣は、前条第二項第二号から第四号までに掲げる場合を除いて、その行政庁に対し、その土地を買い取る旨を申し入れなければならない。

という規定があります。

一般的に農地は評価額が低く、公売したとしても滞納額の大幅な圧縮には繋がりません。また、農地法の規定により、農地の所有権移転にあっては農業委員会の許可が必要とされていますし、営農の観点からも、「広く買受希望者を募る」という公売の趣旨に必ずしも沿うものではないように思います。

農地法第3条

農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。

こうした点から、農地の公売は敬遠される傾向もあるようですが、さらにハードルを高くしているのが鑑定評価でしょう(相対的に滞納処分費の割合が高くなりますからね)。

鑑定人の評価に関しては、国税徴収法基本通達第98条関係4に以下の記述があります。

法第98条第2項の「必要と認めるとき」とは、公売財産が不動産、船舶、鉱業権、骨とう品、貴金属、特殊機械等である場合において、その価額が高価又は評価困難と認められるとき、公売財産の見積価額について紛争を生ずるおそれがあると認められるとき等、税務署長が鑑定人に評価させ、又は精通者の意見等を聴くことが適当であると認めるときをいう。

見積価額の決定にあたり、鑑定人による評価は必須ではありません。また、公売財産評価事務提要においては、土地の評価は原則として取引事例比較法によるとしながらも、

なお、適当な取引事例を収集できない場合は、公売財産の属する近隣地域又は類似地域にある標準地の公示価格又は基準地の標準価格から合理的に算出して得た価格により評価するものとする。
また、上記により評価を行うことが困難な場合には、公売財産の属する地域の土地相場(指値)又は財産評価基本通達の定めにより求めた価格を参考として評価して差し支えない。

としています。

不動産鑑定士協会連合会が発行している「農地の鑑定評価に関する実務方針」においても、

農地等については、取引件数が少なく取引事例の収集が困難な場合が多いが、都市近郊においては、売買仲介業者からの収集が可能な場合がある。

との記述がありますし、地価公示も地価調査も農地については「宅地見込地」として評価をしていますから、「合理的に算出」することはできないでしょう。となると、公売において農地の見積価額を算定する場合においては、「財産評価基本通達の定めにより求めた価格を参考として評価して差し支えない」こととなります。

財産評価基本通達によれば、宅地化の可能性が低い「純農地」については、以下のとおり倍率方式により評価する旨規定しています。

純農地の価額は、その農地の固定資産税評価額に、田又は畑の別に、地勢、土性、水利等の状況の類似する地域ごとに、その地域にある農地の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。

倍率は、評価倍率表として公表されていますので、純農地の見積価額は比較的容易に算定することが可能です。上記の農地法に基づく国の買入れ制度を活用すれば、差押済農地案件の処理促進になるのでは…と思ったのですが、国税徴収法基本通等逐条解説(110条関係)によれば、

国による買入れは、換価制度の最終的な担保規定として存置されたものであるが、国の予算措置との関係から、最近において利用されたことはない。

ということのようです。

もっとも、滞納者の農地を国が買い上げる、ということ自体、納税者の理解を得られるかは疑問が残るところではあります(僕自身も釈然としませんし)。

 

塀の中のお客様?

吏員生活の中で、お客様が「容疑者」という敬称つきで新聞に掲載されたことが何度かあります。多かったのはやはり(?)詐欺。次いでいけないおクスリや植物だったと記憶していますが、1件だけ殺人容疑がありました。

殺人罪については「死刑、無期又は5年以上の懲役に処する」とされていますので(刑法199条)、収監されれば最低でも5年は出てこられないことになります。時効更新事由がなければ、出所前に消滅時効が成立してしまいます。

国税通則法基本通達は、

国税通則法基本通達第12条関係5

送達を受けるべき者が在監中の場合においても、その者の住所等に書類を送達するものとする。この場合、住所等が不明の場合および本人のために書類を受けとるべき者がない場合には、その者が在監している刑務所等に書類を送達するものとする。

としていますから、服役イコール滞納処分の停止、とならないことは明らかです。しかし、代納してくれる親族等や差押可能な財産がなければ、滞納処分の停止の他に道はないということになります。

この点、滞納者が服役中の場合を、即時欠損に該当するとしている自治体も散見されます。

うきは市滞納処分の執行停止に関する要綱

確かに行方はハッキリしているし、生活に困窮することもありませんから、該当するとすれば1号しかないのでしょうが、さて、「塀の中」では本当に「差し押さえることができる財産がない」のでしょうか。

懲役刑による刑務作業を実施した受刑者には、作業報奨金が支払われます。

法務省:刑務作業

令和2年度においては、1人1月あたり約4,320円とのことですが、金額的には少ないものの、これは債権に該当すると思われます。

また、被収容者が収容される際に所持していた現金や、収容中に取得した現金、収容後に外部から差し入れられた現金については、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の規定により、刑事施設の長が領置しているとされています(領置金)。領置金は、被収容者の釈放の際に刑事施設の長から引き渡されることとされていますので、被収容者(滞納者)に返還請求権があるものと解されます。

では、これら債権の差押えは可能でしょうか。

大阪市長令和2年1月6日裁決は、まさに領置金と作業報奨金の差押えについて争われた事例です。

https://www.city.osaka.lg.jp/somu/cmsfiles/contents/0000495/495965/saiketusyo0113.pdf
領置金に係る差押処分については、取立てにより既に処分が消滅しているとして、請求の利益がないことを理由に請求を却下していますが、作業報奨金の差押えについては、以下のとおり取り消すべきであると判断しています。

作業報奨金は、受刑者の釈放の際に、その時点での計算上の金額である報奨金計算額と同額の金額で確定することにより、はじめて受刑者の具体的な権利(作業報奨金支払請求権)として発生する法的性質を有するものとされています。
したがって、釈放前の段階では、作業報奨金の支給を受ける権利というものを観念する余地はなく、刑事収容施設法第100条の
手当金の支給を受ける権利とは異なり、その譲渡し、担保提供、差押えも観念し得ないと解されています。
したがって、本件処分2に係る差押財産である作業報奨金の支払請求権については、 あくまでも釈放前の段階では観念する余地はなく、本件処分2に係る差押処分時においては未だ発生しておらず存在しないものであるから、本件処分2は適法であるとはいえず、取り消すべきと判断します。

いまだ具体的な債権として成立していないため差押えの対象とはならない、との判断ですが、賢明な吏員諸氏におかれては、将来生ずべき債権についても、その発生が確実であるなら差押えが可能なはずだ(最判昭和53年12月15日等)、 との感想を抱かれることでしょう。この点については、東京高判H4.10.2が以下のとおり判示しています。

作業賞与金はあくまでも釈放の際の給与によって権利としての性質をもつことになるのであって、将来発生すべき債権や条件付債権のように権利としては特定できるが、その額が確定されていないにすぎないものとは異なり、かつ、前記のような作業賞与金制度の趣旨、目的に照らし、釈放時に差押えが許されると解すべきものでもない

当然のことながら、領置金の有無・多寡については服役中の刑務所に照会しないと判明しませんが、1号執行停止の判断にあたっては、考慮する必要があるかもしれません。

 

 

 

定期預金の差押え

滞納者名義の定期預金を差し押さえた場合(滞納しているのに定期預金...だと?という至極まっとうな疑問は置くとして)、差押債権者は、当該定期預金の満期までは取立権を行使することができません。そのせいか、定期預金債権の差押えを敬遠する吏員もいるようすが・・。

差押えによって徴税吏員が取得する取立権の内容は、「差し押さえた債権の取立てのために必要な権利(滞納者の有する権利と同一の権利)」と解されていますから、取立ての目的を超える行為については行うことができません。

国税徴収法基本通達第67条関係3
徴収職員は、債権差押えにより、その債権の取立権を取得するから、徴収職員が自己の名で被差押債権の取立てに必要な裁判上及び裁判外の行為をすることができる。ただし、滞納者が有する解除権又は取消権等の形成権については、一身専属的権利及び人格的権利並びに取立ての目的・範囲を超えるような形成権の行使はすることができない。

生命保険の解約金支払請求権については、「差押命令を得た債権者が解約権を行使することができないとすれば、解約返戻金請求権の差押えを認めた実質的意味が失われる結果となるから、解約権の行使は解約返戻金請求権の取立てを目的とする行為というべきである」とされており(最判平成11年9月9日)、取立権に基づく解約権の行使が認められていますが、定期預金債権については、解約権の行使は必ずしも債権実現のために必要不可欠ではありませんから、「目的を超える行為」に該当するものと考えられます。この点につき、東京地判 H20.6.27が以下のとおり判示しています。

定期預金は、預金者から満期日における払戻請求がされない限り、 当事者の何らの行為を要せずに、満期日において払い戻すべき元金又は元利金について 、前回と同一の預入期間の定期預金契約として継続させることを内容とするもので、預金者は、満期日から満期日までの間は、解約申し入れをして任意に預金払戻請求権を行使することはできず、継続停止の申し出をすることにより、その後に最初に到来する満期日より後の満期日にかかる弁済期の定めを一方的に排除し、最初に到来する当該満期日に
預金の払戻しを請求することができる預金であると解するのが相当である。・・・したがって、原告は、本件預金規定により、本件定期預金につき、期限前払戻請求権を有していないというべきである

となると、やはり満期日以降に通常の取立てを行うほかないということになりますが、ここで問題になるのはいわゆる自動継続特約との関係です。

定期預金に自動継続の特約が付されている場合、満期日までに継続停止の申込みがなければ、当該定期預金は満期日に自動的に前回と同一の期間の預金に自動的に継続することになります。満期日以降に払戻しを受ける場合は、満期日までにその旨申し出る必要があるわけですが、差押え後に到来する満期日以降もこの自動継続が適用される(すなわち差押債権者に対抗できる)となると、差押債権者は、預金者に代位して継続停止の申込みをしなければ、その後の取立てを行うことができなくなってしまいます。

この点については、東京地判H2.6.22が以下のとおり判示しています。

自動継続特約が付された定期預金債権が差し押さえられた場合には 、右の自動継続特約に基づき、その差押後の期限到来の際に、当該定期預金契約の当事者が、預金者が期限までに継続停止の申出をしなかったことをもって期限を延長する旨の申出をしたものとみなして当該定期預金債権の期限を延長したものとする取扱いをすることは、右の差押えの処分禁止の効力によって禁じられ、そのような取扱いをしても、差押債権者に対しては、その期限の延長を対抗することができないものと解するのが相当である。

定期預金に係る期限の延長については、差押えによる処分禁止効の対象であり、差押日以降の期限延長については差押債権者に対抗できない、というものです。差押債権者は、差押以降最初に到来する満期日以降において通常どおりの取立てを行うこととなります。

実は、上記平成2年の判例については、差押日が昭和62年6月、最初の満期日が昭和63年1月なのですが、訴状の送達が平成元年1月なんです。つまり差押後最初の満期日をスルーしちゃ ってるんですね。
この場合、第三債務者とすると自動継続をするほかないと考えられますので(預金者に不利になりますからね)、最初の満期日以降発生する利息についても差押えの効力が及ぶものと考えられますが( 国税徴収法第52条第2項)、延滞金の割合を超える利率でも設定されていない限り、滞納者に余計な負担を強いる結果となります。差押えから満期日まで期間が長い場合等は、担当者が異動してしまうケースもあると思いますが、やはり速やかに換価・配当する必要があるでしょう。

振込手数料の取扱い

国税徴収法第136条

滞納処分費は、国税の滞納処分による財産の差押え、交付要求、差 押財産等の保管、運搬、換価及び第九十三条(修理等の処分)の規定による処分、差し押さえた有価証券、債権及び無体財産権等の取立て並びに配当に関する費用(通知書その他の書類の送達に要する費用を除く。)とする。

なのですが、『滞納処分の執行に要した費用は全て税務官庁において支払をし、そのうちで滞納処分費として徴収できるものを滞納処分費として滞納者から徴収するものであるから、その意味では、滞納処分費の徴収は、立替金の回収的な性格を有するものである』とされています(国税徴収法精解(令和3年改訂版)P917)。

滞納処分費として振込手数料を配当しようとする場合、前提として税務官庁において振込手数料を支出していることが必要となるわけですが、金融機関から振込手数料の数百円の請求を受領し、支出負担行為の決議を経て数百円の支出命令を行い、取立後に数百円を自庁に配当する、という一連の行為は、非常に煩雑です。
そこで実務上は、以下の通達に基づいて処理を行っています。

国税徴収法基本通達第67条関係10

被差押債権の履行の費用については、次による(民法第485条参照)。
(1) 取立債務であるときは、その取立てに要する費用は滞納処分費とし て支出する。ただし、第三債務者が取立てに要する費用を支出し、その費用を債務の額から差し引いて給付した場合は、その費用に相当する額を滞納処分費として支出しなくても差し支えない。この場合においては、第三債務者に対し、その費用に相当する額については履行の請求をしないものとする。

第三債務者が執行機関に送金をする際に、振込手数料を差押債権額から差し引いた残額を送金してもらい、滞納処分費としては支出しない、ということになります。この場合 、振込手数料相当額は差押債権の一部ですが、この部分については履行の請求をしない、という取扱いになっています。

たとえば給料の差押えにおいて、手取額20万円、禁止額19万円の場合、差押可能額は1万円となりますが、振込手数料(600円)が必要な場合は、その相当額を差押債権額から差し引いて、9千4百円の送金を依頼します(数百円であっても、禁止額に踏み込みことはできません)。この場合において、差押調書上の差押債権額は1万円、配当計算書上の取立債権額は9千4百円として処理することとなります。
※差押調書と配当計算書で差額が生じることとなりますが、この分については上記通達により「履行の請求をしない」とされていますので、問題ないものと考えます(弊社では『振込手数料600円を別途控除』等と記載しています)。

中田選手の年俸と住民税の現年課税

ジャイアンツに移籍した中田翔選手の年俸が大幅にダウンしたことが話題になっています。

年俸1.9億円ダウンの中田翔、税金は大丈夫? 実際に支払う額を計算してみた(税理士ドットコム) - Yahoo!ニュース

移籍後の成績が、34試合出場で打率.1割5分4厘、3本塁打、7打点ですから、減額制限を超える大減俸もやむを得ないといったところでしょうが、記事でも触れられているとおり、翌年度課税である住民税の納付が気になるところです。

ちなみに制度上、都道府県税である個人事業税も翌年度課税となっていますが、

地方税法第72条の49の11

個人の行う事業に対する事業税の課税標準は、当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得による。

こちらは課税される業種が限定されており(地税72条の2)、プロ野球選手が課税されることはありません。

※業種とすれば請負業は課税対象なのですが、判定基準として

(1)営業の範囲に属するものであること
(2)資本的経営を行っていること
(3)仕事の計画及び遂行について独立性を有すること
(4)危険負担を有すること

を満たすものとされていますので、プロ野球選手は対象外と解されています(少なくとも(2)及び(3)には該当しないでしょうからね)。

https://www.pref.kanagawa.jp/documents/6455/27-2.pdf

中田選手は心配ないでしょうが、こうしたケースは往々にして滞納に繋がることが多いようです。

平成17年に公表された政府税制調査会による「個人所得課税に関する論点整理」においても指摘されているとおり、所得の発生と税負担の時点がズレていることが要因の一つと言えるでしょう。

また、個人住民税は、納税の事務負担に配慮して、前年の所得を基礎として課税するいわゆる前年所得課税の仕組みを採っているが、本来、所得課税においては、所得発生時点と税負担時点をできるだけ近付けることが望ましい。

個人所得課税に関する論点整理 : 税制調査会(2009年10月7日まで) - 内閣府

もちろん、当時から指摘されているにも関わらず実現されていないわけですから、難しい点もあるでしょう。日本商工会議所も、一貫して反対の姿勢をとっています。

個人住民税の現年課税化が検討されているが、特別徴収制度の下で、現年課税化を導 入しようとすれば、企業は、従業員の自社以外の給与等の所得や寄附金額等を把握した うえで、従業員の 1 月 1 日現在の住所の把握、従業員の住所がある地方自治体ごとに異 なる税額計算等に係る事務を行う必要がある。企業に過度な納税事務負担の増加を招く 個人住民税の現年課税化には反対である。

https://www.jcci.or.jp/r2honbun.pdf

上記の提言でも触れられているとおり、マイナンバーの活用が一つのカギになると思いますが、道のりはまだ遠いのでしょうか…。

 

 

質問検査の限界と捜索の範囲

国税徴収法第142条に基づく捜索については、

滞納者若しくは第三者に戸若しくは金庫その他の容器の類を開かせ 、又は自らこれらを開くために必要な処分をすることができる。

と規定されています。すなわち捜索については、相手方の意思に反して強制的に行うことができるわけですが、これに対して質問検査(国税徴収法第141条)については質問・検査を強行することを認める規定はありませんから、滞納者が検査を忌避した場合、滞納処分のための資料を収集することが不可能となります。
そこで、質問検査に対する受忍義務の履行を確保するための手段として行政刑罰についての規定が置かれています。

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 第百四十一条(質問及び検査)の規定による徴収職員の質問に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をした者
二 第百四十一条の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は当該検査に関し偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類を提示した者

では、この行政刑罰が実際に適用されているのでしょうか。

過日のブログでも「荒川民商事件」に触れましたが、じつはこれ、 刑事事件なんです(事件番号が昭和44年(あ)734号なので、刑事の上告事件ですね。ちなみに事件名は「所得税法違反」です)。
原審である東京高裁S43.8.23は、

被告人らは税法が憲法違反である、と前提し刑事処罰に甘んじても 法律上の検査制度を否定し、これを拒否すべきことを明らかにしているのであつて、それは端的に現行税制度に対する挑戦を意味する。もちろん、現行制度に対する自由なる批判は、国民の権利として当然許容されなければならないが、被告人らの本件検査拒否は明らかに法秩序その ものを無視したものとして、法的制裁を免れないものである。

として被告人に罰金3万円に処しています。

ただし、実際に質問検査の忌避による行政刑罰の適用状況は、本件を含めてわずか6例に過ぎず、それも全て昭和30年代後半から昭和40年代に判決が出されたもので、昭和50年以降、適用された事例はないとのことです(185ページあたり)。

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/50/03/ronsou.pdf

しかも、3万円の罰金刑に処されたからといって、質問検査の所期の目的が達成されたわけではありませんし、3万円という金額にしても、いささか違反者を威嚇する力には欠けるような気がします。質問検査権は、行政刑罰によって間接的・心理的に実効性を担保している、というのが建前なのでしょうが、前述のとおり運用面から見ても機能不全に陥っていると言わざるを得ません。

国税徴収法の規定では、質問検査は「滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるとき」に行うことができるのに対し、捜索は「滞納処分のため必要があるとき」に行うことができるとしています。文理上、141条の規定による範囲は、142条の規定による範囲に包含されるものと考えられますから、差押えを目的とした捜索は言うに及ばず、帳簿の取上げ等、財産調査を目的とした捜索も法が認めているものと解されます。質問検査が奏功しなかった場合は、捜索により物理的・強制的に調査を実現する、というのがあるべき姿であると考えます(手間はかかりますけどね)。

 

行政財産の貸付けと使用許可

参院議員の山内俊夫容疑者が、羽田空港の格納庫の売買を巡る業 務上横領の疑いで逮捕された、とのニュースです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE280W30Y1A121C2000000/

格納庫の土地は国有地で、賃貸会社は国交省に支払う土地使用料を滞納。売買契約の際、約28億円のうち2億8000万円を滞納金の支払い分として分別管理することで合意し、賃貸会社の代理人弁護士が現金を保管していた。こうしたなか、元議員は保管された現金が返済に使われない恐れがあるなどとして19年3月、弁護士に対して全額を自ら管理する別の口座に送金させた上で、東かがわ市京都市で進められていた2件の土地取引の資金に流用したという。

なかなかとんでもない話のようで、国交省からも注意喚起が出されています。

株式会社Wings of Life( WOL )の格納庫について(注意喚起) | 国土交通省東京航空局

行政財産は、国有財産法の規定に基づき、原則として貸し付け、交換し、売り払うこと等はできませんが(国財法18①)、「その用途又は目的を妨げない限度」において、貸付け(国財法1 8②)、使用又は収益の許可(国財法18⑥)を行うことができるとされています。本件については、上記の「注意喚起」にもあるとおり、行政財産の使用許可案件だったようです。

東京航空局は、羽田空港内において国有財産法第18条第6項及び 第19条の規定に基づき「大型格納庫及び附帯施設敷地」として使用許可していた国有財産(土地)・・・について、・・・ 国有財産使用許可の期間更新・・・の申請に対し不許可
・・の決定通知を行ったところです。

貸付けであれば賃貸借契約が締結されますので、当該契約に係る賃貸料は私債権として扱われますが、行政財産の使用料については、地方自治法第231条の3の適用を受けますので公債権となります 。

地方自治法第231条の3第1項

分担金、使用料、加入金、手数料、過料その他の普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない。

さらに、同条第3項の適用は受けないものと解されていますので、

地方自治法第231条の3第3項

普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料、法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。

使用料については非強制徴収公債権として位置づけられていることになります。したがって、本件使用料に関して自力執行権は認められず、履行の請求については訴訟手続によることとなります(本件については、使用不許可を不服として滞納している側が訴訟提起してきたようですが。盗人猛々しいというやつですね)。

地方自治法施行令第171条の2

普通地方公共団体の長は、債権・・・について、地方自治法第二百三十一条の三第一項又は前条の規定による督促をした後相当の期間を経過してもなお履行されないときは、次の各号に掲げる措置をとらなければならない。(後略)
一 担保の付されている債権(保証人の保証がある債権を含む。)については、当該債権の内容に従い、その担保を処分し、若しくは競売その他の担保権の実行の手続をとり、又は保証人に対して履行を請求すること。
二 債務名義のある債権(次号の措置により債務名義を取得したものを含む。)については、強制執行の手続をとること。
三 前二号に該当しない債権・・・については、訴訟手続(非訟事件の手続を含む。)により履行を請求すること。

なお、使用を許可するのか貸し付けるのかの判断にあたっては、使用許可を基本としながらも、「堅固な建物その他の土地に定着する工作物を所有」する場合等は、長期安定的な利用をはかるため、貸付けによることとされています(使用許可に関しては、借地借家法の適用を受けないこととされています(国財法18⑧))。今般のケースも、格納庫の底地として使用することを目的としてはいるものの、「当該行政財産を所管する各省各庁の長が当該行政財産の適正な方法による管理を行う上で適当と認める者に限る」との要件に合致しなかったため、貸付けではなく使用許可とした・・・のでしょうか笑。