徴税吏員の逡巡

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宮島訪問税は公平か

広島県廿日市市世界遺産厳島神社のある宮島を訪れる観光客らを対象に課税する「宮島訪問税」の導入に、総務大臣が同意した、との記事です。

1回100円、「宮島訪問税」導入に同意…武田総務相 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

廿日市市平成27年度に「法定外目的税導入検討委員会」を設置、世界文化遺産の島である宮島の自然と文化、歴史を守りつつ、誰にでもやさしい観光地づくりを進めるための財源の一つとして「宮島を守るための新しい税」の導入について検討した経緯がありますが、委員会の結論として「具体化に至るまでには更なる議論が 必要」との考えが示され、導入が見送られた経緯があります。

https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/15014.pdf

その後、令和2年度に「宮島財源確保検討委員会」が設置され、

観光客の増加が直ちに宮島地域の税収につながっておらず、多くの観光客等が宮島へ の来島によって生じる行政需要の一部を原因者に負担してもらうためには、宮島に入 域する行為で、課税客体を絞って徴収する手法が最も適切である。

などとして、船舶により宮島を訪問する行為を課税客体とする「宮島訪問税」の導入が提案されました。上掲の「課税客体を絞って」の趣旨は、宮島に「恒常的に所在する者」を除外する点にあり、具体的には宮島町の区域内に「住所を有する者」及び「通勤または通学する者」を除外することとされています。

https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/48644.pdf

平成28年の検討会においては「税の公平性の観点から、市民・ 市民以外の区別をせず、来島手段は問わないこと」を原則としており、島民の理解を得ることが「税の導入検討の根幹に関わる事項」と位置付けられていました。

今般の「宮島訪問税」において島民及び通勤・通学者が除かれたことはやや唐突感がありますし、報告書に記載されている「専門家意見」についても、諸手を上げて賛成、ということでもないように読めます。

フェリー等の運賃に上乗せする方式による入域税については、沖縄県の4か村等で既に導入されていますが、公平性確保の観点から原則として島民からも徴収しています。観光客(訪問者)に限定して課税するのは廿日市市が全国初となると思われますので、今後の動向に注目ですね。

なお、記事で触れられている総務大臣の同意については、

1 国税又は他の地方税課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重とな ること
2 地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること

3 1及び2のほか、国の経済施策に照らして適当でないこと

に該当しない限り、総務大臣は同意しなければならないこととされています(地税671)。

 

 

そして請求は却下される

国税不服審判所が、令和2年度における審査請求の概要を公表しました。

令和2年度における審査請求の概要 |審査請求の状況 | 国税不服審判所の概要等 | 国税不服審判所

○令和2年度の審査請求の処理件数は2,328件となっています。

○処理件数のうち、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた件数(認容件数)は233件(一部認容168件、全部認容65件)で、その割合は10.0%となっています。

総務省が実施している「行政不服審査法施行状況調査」によれば、(こちらは平成30年度の統計値ですが)地方公共団体における請求認容の割合は6.8%とされていますので、国税不服審判所による裁決の方が若干認容の割合が高くなっています。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000708344.pdf

内訳を見ると、徴収関係については処理件数151件に対して請求認容は6件(3.9%)。さらに興味深いのは、却下の件数が58件(38.4%)と、課税に係る審査請求の却下件数(35件、1.63%)を大幅に上回っている点です。

不服申立てがあった場合、地方税法第19条の7第1項ただし書の規定により、滞納処分による換価は裁決があるまでの間は行うことができません。

審査請求は、その目的となつた処分に係る地方団体の徴収金の賦課又は徴収の続行を妨げない。ただし、その地方団体の徴収金の徴収のために差し押さえた財産(国税徴収法第八十九条の二第四項に規定する特定参加差押不動産を含む。)の滞納処分(その例による処分を含む。次項において同じ。)による換価は、その財産の価額が著しく減少するおそれがあるとき、又は審査請求をした者から別段の申出があるときを除き、その審査請求に対する裁決があるまで、することができない。

ただし、国税徴収法第89条第1項によれば、債権は換価が必要な財産からは除かれていますので、不服申立てがあった場合でも、債権の取立ては妨げられないものと解されます。

差押財産(金銭、債権及び第五十七条(有価証券に係る債権の取立て)の規定により債権の取立てをする有価証券を除く。)又は次条第四項に規定する特定参加差押不動産(以下この節において「差押財産等」という。)は、この節の定めるところにより換価しなければならない。

債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達によって効力が発生し、当該債権を取り立てることによって効力を失うものと考えられています。したがって、取立て以降に審査請求を提起したとしても、請求の対象となる処分は既に効力を失っており、回復するべき法律上の利益が存在しないため、かかる審査請求は不適法と見做され、裁決によって却下されるのが一般的です。

また、配当処分に対する不服が申し立てられるケースもありますが、配当処分に係る審査請求期間は換価代金等の交付期日までと(地税19の4(4))極めて短期間とされているため、期間徒過による却下事例が多く見受けられます。また、仮に配当処分に係る審査請求が認容され、当該処分が取り消された場合であっても、処分庁は配当を受けた者から配当金の返還を受けたうえで再度適法な配当処分を行うのみであるとして、請求の利益がないと判断される事例もあるようです。

https://www.city.noda.chiba.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/022/711/saiketsu001_shicho.pdf

行政不服審査法は、「審査請求が不適法であって補正することができないことが明らか」な場合は、審理手続を経ずに却下の裁決を行うことができる旨を規定しています(行審24②)。上掲の野田市の事例においても、同項の規定を適用して請求を却下する旨明示されています。

債権、とりわけ一度の取立てで被差押債権が消滅することの多い預貯金の払戻請求書については、上記のとおり審査請求は「門前払い」されることが多く、審査請求制度が実効性を失っているとの指摘もあるようです。

審理員による審査手続は、裁決権を有する審査庁とは別の機関が審理を行うことにより、審理手続の公平性・中立性・客観性を確保することを目的としています。この導入趣旨に鑑みれば、請求の要件を充足しない場合であっても、審理員を指名して実体審理を経る、という取扱いも一考に値するのではないでしょうか。

 

過料と滞納処分

石川県が、まん延防止等重点措置に伴う営業時間短縮命令に違反したとして、金沢市内の9店舗に過料を科すよう求める通知書を金沢地裁などに送付したとのニュースです。

石川県が金沢市の9店に過料通知 コロナまん延防止措置伴う時短命令違反で 6月14日発表 | 社会,医療 | 福井のニュース | 福井新聞ONLINE

営業時間短縮の命令については、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくものですが、命令に対して違反行為をした場合の罰則が、同法第80条第1項に規定されています。

次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、二十万円以下の過料に処する。

一 第三十一条の六第三項の規定による命令に違反したとき。

記事にもあるとおり、法律に基づく過料については、都道府県知事が裁判所に対して通知を行い、実際の執行は裁判所の命令に基づくことになります。

他方、地方自治法に規定されているとおり、地方公共団体は条例・規則によって過料を科す旨の規定を設けることができるとされています。

普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮こ、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

条例に基づく過料が期限までに納付されない場合は、地方自治法第231条の3第3項の規定により、滞納処分の例により強制的に徴収することができます。

普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料、法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。

実務はどうするんだろうと思って検索してみると、「熊本市過料の滞納処分に関する規則」に行き当たりました。

熊本市過料の滞納処分に関する規則

熊本市では同規則により、過料の徴収に関する事務に従事する市職員のうち指定する者に対して、過料の滞納処分に係る職務を委任するとしています。この「滞納処分職員」として指定された職員が、財産調査、質問検査及び差押えを行う、という建て付けのようです。

徴税吏員に与えられた権限の大きさに鑑みれば、日常、税業務に従事しない職員に対して権限だけを与えるという取扱いには違和感を覚えます。「必要な事項は市長が別に定める」とのことですが、税法上の守秘義務の適用についても判然としません。

過料を科すこと自体がそれほど頻繁にあるケースでもないでしょうから、首長の決裁により滞納処分を行うことも不可能ではないと考えます。職員を指定して権限を与える(責任を負わせる)必然性は薄いように思います。

 

 

 

「裁定的関与」は見直されるか

沖縄県の玉城知事が、全国知事会のWEB会議で、国による「裁定的関与」について見直しを求めるよう要望しました。

国の自治体への「裁定的関与」見直しを 全国知事会で玉城知事(RBC琉球放送) - Yahoo!ニュース

都道府県知事が法定受託事務に係る処分を行った場合、当該処分についての審査請求は、当該事務を担当する大臣に対して行うこととされています(地自255の2①(1))。

法定受託事務に係る次の各号に掲げる処分及びその不作為についての審査請求は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、当該各号に定める者に対してするものとする。(以下略)

一 都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分 当該処分に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣

処分(若しくは不作為)を行った行政庁とは別の組織の判断で、行政処分が取り消されるわけですから、地方自治体の自主性・自立性を軽んじているとの批判はあるでしょうし、処分の経緯や周辺事情については自治体職員の方が確知しているはずなのに、国が審査庁となることには違和感があります。法令解釈にかかる疑義に関しては、司法判断を仰げは良いわけですし。

裁定的関与の存続理由につき、松本逐条には以下の記述があります。

本条の規定は、法定受託事務の性質第一号法定受託事務にあつては国において、第二号法定受託事務にあつては都道府県において、それぞれのその適正な処理を特に確保する必要があるという性質)を踏まえつつ、私人の権利利益の救済を図ることを重視するとともに従来の取扱いとの継続性を確保することにも配意して、引き続き処分庁以外の行政庁に対し、「審査請求」を認めることとした

適正な処理を特に確保する必要があるから、国が関与しなければならない、という考え方が、「地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるよう(地自1の2(2))」なものなのか、疑問が残ります。

僕自身も、携わった処分を国の機関によって取り消された経験があります(身バレが怖いので詳細は伏せますが笑)。弁護士も交えて、国の裁決を不服とした取消訴訟を提起することも検討しましたが、それができないことを知って絶望しました。

この点について、最判昭和49年5月30日は以下のとおり判示しています。

国民健康保険事業の運営に関する法の建前と審査会による審査の性質から考えれば、
保険者のした保険給付等に関する処分の審査に関する限り、審査会と保険者とは、一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合と同様の関係に立ち右処分の適否については審査会の裁決に優越的効力が認められ、保険者はこれによつて拘束されるべきことが制度上予定されているものとみるべきであつて、その裁決により保険者の事業主体としての権利義務に影響が及ぶことを理由として保険者が右裁決を争うことは、法の認めていないところであるといわざるをえない。

 上記の「拘束されるべきことが制度上予定されている」という点に ついては、(諸説あるようですが)行政事件訴訟法第52条の規定を一つの根拠としていると考えて良いと思います。

裁決は、関係行政庁を拘束する。
2 申請に基づいてした処分が手続の違法若しくは不当を理由として裁決で取り消され、又は申請を却下し、若しくは棄却した処分が裁決で取り消された場合には、処分庁は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない。
3 法令の規定により公示された処分が裁決で取り消され、又は変更された場合は、処分庁は、当該処分が取り消され、又は変更された旨を公示しなければならない。
4 法令の規定により処分の相手方以外の利害関係人に通知された処分が裁決で取り消され、又は変更された場合には、処分庁は、その通知を受けた者(審査請求人及び参加人を除く。)に、当該処分が取り消され、又は変更された旨を通知しなければならない。

 上記最高裁の判示と併せて考えれば、これらの規定は、「一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合と同様の関係」を前提としているものと思量されます 。機関委任事務制度下における包括的指揮監督権は第一次分権一括法により廃止されたわけですから、指揮監督権を前提とした裁定的関与(のみならず、国による裁決の拘束力までも)が存続している、というのも、理解し難い話ではあります。

 

誰が責任を負うのか

群馬県伊勢崎市が、窓口で徴収した市税19万円を紛失したと発表しました。

市役所窓口で納められた税金紛失 財政部長が全額補填 伊勢崎|NHK 群馬県のニュース

5月10日の領収分といいますから、固定資産税等の納通発付直後 。窓口がバタバタしていたであろうことは想像に難くありませんが、当然言い訳にはなりません。
「納付された税金を集計したところ、19万円が足りないことに職員が気付き」ということなので、領収済通知書は手元にあって、現金のみがない、という状況であると推察します。事情を知る人間の犯行であれば、発見を遅らせるために済通も処分すると思いますので、事件性は低いと考えて良いのではないでしょうか。

気になるのは「管理・監督責任のある財政部長がみずから紛失した全額を補填した」という点です。

現金等の亡失があった場合の現金出納員及び現金分任出納員の賠償責任は、地方自治法第243条の2の2に規定されています。

会計管理者若しくは会計管理者の事務を補助する職員、資金前渡を 受けた職員、占有動産を保管している職員又は物品を使用している職員が故意又は重大な過失(現金については、故意又 は過失)により、その保管に係る現金、有価証券、物品(基金に属する動産を含む。)若しくは占有動産又はその使用 に係る物品を亡失し、又は損傷したときは、これによつて生じた損害を賠償しなければならない。(以下略)

現金については、重大な過失であることを要せず、単なる過失であっても職員に賠償責任がある旨を規定しています。
市の発表では「人為的な過誤によるものであり、納税者との現金の授受、レジへの入金、保管及び集計作業などの現金取扱い中に発生したものと思われます。」とされていますので、会計管理者の事務を補助する職員による過失が原因であると結論づけているわけです。

市税等収納金亡失事案の発生/伊勢崎市

そうなると、地方自治法 第243条の2の2第3項の規定に基づき、監査委員の判断を仰ぐべき事案であると考えます。

普通地方公共団体の長は、第一項の職員が同項に規定する行為により当該普通地方公共団体に損害を与えたと認めるときは、監査委員に対し、その事実があるかどうかを監査し、賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき、期限を定めて賠償を命じなければならない。

伊勢崎市の財務規則には、以下の規定が置かれていますので、(これは想像ですが)総務部長まで事故報告があがるまでに財務部長による補填は決定しており、「補填したのだから、実質的に市には損害が発生していない」という説明をしたのではないでしょうか。

伊勢崎市財務規則第285条

現金、有価証券、物品若しくは占有動産を保管する職員又は物品を 使用する職員は、当該保管又は使用に係る現金、有価証券、物品若しくは占有動産を亡失し、又は毀損したときは、 直ちに、その旨を事故届出書により所属主管部長等に届け出なければならない。
2 主管部長等は、前項の規定による事実を発見したとき又は法第24 3条の2の2第1項に規定する職員が法令の規定に違反して行為をしたこと若しくは怠ったことにより市に損害を与えたと 認められるときは、そのてん末を調査し、事故報告書を付して総務部長に提出するとともに、その旨 を会計管理者に通知しなければならない。

しかしながら、損害の有無、賠償責任の有無については、やはり監査委員において判断をするべきでしょう。
平成30年の鎌倉市の事例では、職員らが補填をしたうえで監査委員に監査を求め、監査委員から本件における賠償の責任はない、との判断をうけています。

本監査請求の対象職員12名は、いずれも現金出納員ないし現金分任出納員であり、これらは地方自治法第243条の2第1項に規定 される職員に該当する。しかし、対象職員 12 名からは損害を補填したい旨の申し出があり、市の損害は補填され たことが確認されている。
このことから、本監査請求における賠償の責任はないものと判断する。

https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kansa/documents/29baisho.pdf

刺激を受けました

フォロワーさんが執筆された、行政財産と相隣関係に関する論文を拝読しました。

僕自身、かつては普通財産の管理業務や用地買収業務に従事していましたので、非常に興味深く読ませていただきました。

論文で検討されていた事案は、自治体が所有する都市計画道路の予定地であるとのことでしたが、これが一般の道路改良事業である場合はどうなるんだろう、と思ったので、甚だ僭越ですが、この視点から少し考えてみました。

 

一般に、自治体が公共事業の施行のために取得した用地については、行政財産として扱われます。

地方自治法第238条

4 行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいう。

道路改良事業の場合は、道路法の規定に基づいて道路認定(道路法第8条第1項)及び区域決定(同法第18条第1項)を行った上で用地の取得に着手しますから、自治体が土地の権原を取得する時点ではすでに「供することと決定」されています。すなわち取得した時点から行政財産として扱われることになると解されます。

道路法第8条 

第3条第4号の市町村道とは、市町村の区域内に存する道路で、市町村長がその路線を認定したものをいう。

第18条

・・・道路を管理する者・・・は、路線が指定され、又は路線の認定若しくは変更が公示された場合においては、遅滞なく、道路の区域を決定して、国土交通省令で定めるところにより、これを公示し、かつ、これを表示した図面を関係地方整備局若しくは北海道開発局又は関係都道府県若しくは市町村の事務所・・・において一般の縦覧に供しなければならない。道路の区域を変更した場合においても、同様とする。

本工事の施工がいつになるか分からない都市計画道路とは異なり、道路改良事業については、用地買収に着手する頃には、工事の見通しもある程度は立っているはずです。民法による相隣関係の規定を無制限に主張されると、事業の施行に支障が生じるおそれがあります。

そこで道路法には、行政財産に隣接する区域を指定し、当該区域内における一定の行為を制限することができる旨を定めた規定が置かれています。

道路法第44条 

道路管理者は、道路の構造に及ぼすべき損害を予防し、又は道路の交通に及ぼすべき危険を防止するため、道路に接続する区域を、条例(指定区間内の国道にあつては、政令)で定める基準に従い、沿道区域として指定することができる。但し、道路の各一側について幅二十メートルをこえる区域を沿道区域として指定することはできない。

上記規定は、道路の供用開始前における道路予定地域にも準用されますので(道路法第91条第2項)、道路認定・区域決定を経て道路用地を取得した後であれば、沿道区域を指定した上で道路に対する損害又は危険を防止するため必要な措置を講ずべきことを命ずることができます。その制限の範囲内においては、相隣関係の規定についても一定の制限を受けるものと考えることができます。

なお、札幌高判昭和54年5月31日は、河川法の規定による新水路敷地に係る囲繞地通行権に関して、

 然しながら他方河川法は、公共用物としての河川の適正な利用とその保全を河川管理者に命ずることによつて、河川本来の機能の維持とその発揮を期待しているのであるから、河川区域に成立する囲繞地通行権の内容は、右河川法の所期するところと両立しうるものに制限されるべきことも、また、当然であるということができる。

とし、さらに、

少くとも相当の重量物件を常時搬出入するために通行権が民法第210条の規定に基き河川区域に成立することは、かかる通行によつて河川区域内の土地の形状を変更させる虞がないとはいえないことを考慮すると(河川法第27条第1項参照)、これを消極に解さざるを得ない。

と判示して、トラックによる通行を含む囲繞地通行権を否定しています。

 

繰り返しになりますが、とても興味深く読ませていただきました。

執筆された抹茶氏(@matcha1255)に心から敬意を表します。ありがとうございました。

 

苫小牧市は大丈夫か

JR苫小牧駅前にある閉鎖された旧商業施設をめぐり、土地の一部を所有する不動産会社が苫小牧市に損害賠償を求めた裁判で、2審の札幌高裁は1審に続き苫小牧市の訴えを退けました。

JR駅前の旧商業施設めぐる訴訟 2審も苫小牧市の訴え退ける|NHK 北海道のニュース

商業施設は2014年8月に閉鎖され、翌年10月に苫小牧市が建物の所有権を寄付により取得していますが、閉鎖に先立つ2014年2月に、原告の不動産会社が敷地の一部を購入していました。市は原告に対しても寄付を求めて協議をしたようですが、不調に終わり、占有していた期間分の賃借料を請求された、という事案のようです。

一審判決を見る限り、市側は「権利の濫用」を軸に主張を展開していたようですが、そもそも市が建物の所有権を取得する時点で、既に原告は敷地の所有権を取得していたわけですから、権利の濫用というのは、ちょっと苦しいと言わざるを得ません。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/301/089301_hanrei.pdf

ただし、

原告は,本件建物及び本件敷地の再開発を行おうとする者に対し,本件土地に対する補償を要求するなどの利益を受けることを企図して,本件土地を取得したものである。

という内容については、強ち無理な主張というわけでもないようで、高速道路の事業予定地に、補償金目的で過密に立木などを植栽した事案について、権利濫用の法理を適用し、損失の補償を不要とした収用委員会の裁決例があります。

https://www.union-r.co.jp/library/img/pdf/rep_h20-1.pdf

本件植栽行為は、公共事業の実施が明らかであるにもかかわらず、用地買収を承知のうえで敢えて意図的に「損失」を虚構するもので、公共事業を利用してもっぱら不当な立木補償を求める要素が強いものである。かかる行為は現行制度における事業認定前という損失補償制度の隙を狙って補償の増加を図ることを目的としていることが明らかであり、高速道路という公共施設の建設に阻害を与える行為であって、公共の福祉に反するとともに信義誠実の原則に反し、権利の濫用と言える。

今般のケースにしても、土地収用法の規定による事業の認定を経ていれば、問題なく土地の所有権を取得できたはずです(なんらかの事情はあるのでしょうが)。土地の所有権を取得する目途も立たない段階で、建物の寄付を受けてしまったことは、拙速との誹りを免れないように思われます。